ピロリ菌の除菌

患者さんの胃炎について話していた際にピロリ菌の除菌について話が出ました。というか、医師に言われていないか確認してみました。以前、健康診断で胃カメラをした際に慢性胃炎でピロリ菌も居てると確か言われた…とのことですが、除菌の話は出なかったと。自覚症状もなかったようなので、そんな対応だったのかも知れません。でも、今なら除菌が第一選択枝でしょうか。その患者さんが、現在胃に軽い痛みを感じているから、というだけではなく、知らなかったんですけど、本年2/21というから1ヶ月前…

ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎に対する除菌の保険適用が認められた」


からです。これで保険適用範囲がぐっと広がることになります。なるほど - 喜多鍼灸院日誌のような研究や、色々なエビデンスが積み重ねられて認められるに至ったようですが、m3.comの「臨床賛否両論」によると(自主的に投票した医師732名)、推進が63%で慎重は26%、どちらとも言えないは11%ほどあります。慎重派はまだエビデンスが足りないということで、主な意見として紹介されていたのが70歳の人に行っても効果は期待できるか?除菌治療を失敗すればクラリスロマイシン耐性菌が増加するとする論文は多い、などです。
一応、除菌を安易にしないため(胃癌除外の必要性も有り)「内視鏡検査により胃炎が認められた場合」に保険適用となるそうです。

日経メディカル2013年3月号「ピロリ胃炎の除菌が保険適用、本年を「胃癌撲滅元年」に」によりますと、

 胃癌対策として、わが国ではこれまでX線法による2次予防検診が行われてきました。しかし、40年にもわたって年間約5万人が胃癌で亡くなっており、その死亡者数は全癌中2位を占めています。全国で地域、職域を含めて約620万人が公的検診を受けていますが、胃癌の発見率は0.088%(5500人)です。胃癌の発生数は約11万人。公的な胃癌検診は発生する胃癌の5%程度しかカバーしていないわけです。

と言う問題があるため大歓迎だと。
これを読むと5%しかカバーしてないなんて、胃癌検診全然いけてないのか?と思ったんですけれど、日本人口1億2千万として0.088%掛けると10万5600人。まあ、胃癌検診が40歳以上として、分母が違ってきますので、やはりあんまりいけてないんですけれど、全然じゃない。でも受診率が上がらないというところが限界だったんですね。
そういえば私も45歳になりますが、未だ一回も胃癌検診してません。


追記 2013.06.04
胃癌ピロリ菌原因説に疑義を挟む現象に「アジアのパラドックス」がありました。でも、それについても色々研究されてるんですね、というのを見つけたのでご紹介。感染症研究国際ネットワーク推進プログラムの2009年8月のニュースレターに掲載された記事です。もう4年近く前ですから、そこから研究進んだ結果として保険認定に繋がっていったんでしょうね。

ヘリコバクターピロリ感染による胃癌誘導因子の疫学的解析研究

●背景
 新興感染症起因細菌のひとつであるHelicobacter pyloriは、感染症のなかで最も普遍的な感染症のひとつである。本菌の持続的感染は胃・十二指腸潰瘍の原因のみならず、胃癌形成に直接的に関与していることが、多くの実験的成績により支持されている。本菌の感染は、幼年期に主として衛生的環境要因からくる暴露により達成され、それゆえ、開発途上国、特にアジア、アフリカ諸国では高い感染率が知られている。日本は、先進国とされているにもかかわらず高齢者層の本菌保有率が高い(約50%)が、これは以前の衛生環境の貧困によるものと考えられている。一方、本邦における胃癌の発生率は、近年の菌保有率の減少に伴うが如くに減少傾向を示しているが、依然そのレベルは高い(10万人あたりの罹患48.9)。ところが、タイを含むアジアおよびアフリカのいくつかの国では、H. pyloriの感染率は同様に高いにもかかわらず(例えばタイでは、H. pylori感染率 76%)、胃癌の発生率が非常に低い事実(10万人あたりの胃癌罹患 3.9)も報告されている。このパラドックスはAfrican and Asian enigmaと呼ばれ、食事、嗜好品等の要因がH. pyloriによる胃癌発生を修飾している可能性が示唆されてきた。しかしながら、このような要因はいまだ疫学的にも実験的にも立証されておらず、他の要因の関与が疑われている。これに関連して、近年、H. pyloriの免疫応答に、蠕虫 (helminth) のような寄生虫による複合感染が影響することが、モデル動物を使った実験により明らかされた。すなわち、蠕虫感染がH. pylori感染による胃癌誘導に抑制的に働く機序が提案された。これは、H. pyloriの感染率が高い開発途上国の一部では、蠕虫感染が風土病としても知られており、蠕虫による複合感染がHelicobacter感染による胃癌の発生を抑える方向に影響し、African and Asian enigmaを起こしているものと考えられる。
 他方、H. pyloriの病原因子のなかで、細胞空胞化毒素関連タンパク(cytotoxin-associated protein: CagA)の作用が病原性に深く関与していることが知られている。これに関連して、CagAの遺伝子であるcagAは遺伝子多型をもち、大別して「東アジア型」および「欧米型」に区分されることが近年明らかとなった。さらに、東アジア型を有するCagAは、欧米型を有するCagAに比べ病原性が高いことが示されている。
 そこで、本研究では、H. pylori感染と胃癌発生におけるAfrican and Asian enigmaを解明することを具体的な目的として、前記仮説の疫学的検証をタイで実施するため、胃癌発生における特定要因関与を解析している。タイを本研究対象国とする理由は、アジアのなかでも高いH. pylori感染率と低い胃癌発生率、さらには寄生虫の予測される高い感染率にある。これらに加え、本研究実施には、現地における検体の収集と一次解析が必須であり、本プログラムの感染症国際研究拠点であるタイ国立予防衛生研究所を本研究拠点として活用するためである。

●結果
 これまでに、タイ健常人535名から糞便を採取した。50.2%の検体でH. pylori 抗原が確認された。寄生虫検出は9.3%であった。抽出したH. pylori cagA遺伝子型の解析はH. pylori 抗原陽性検体から細菌DNAを抽出し実施した結果、約93%にH. pylori DNAが確認され、糞便中にH. pylori 抗原が検出された健常人の約18%がcagA陽性のH. pyloriに感染しており、その内訳は東アジア型約14%、欧米型約31%、型判別不能が約55%であった。したがって、タイにおいては、寄生虫の検出率が低く、寄生虫感染とH. pylori 感染の病態との関連性を示すことはできなかったが、cagA陽性H. pylori感染率が低く、さらに東アジア型cagA陽性H. pylori感染率が低いことが胃癌リスクの低い原因であると考えられた。

引用以上