鎮痛剤乱用に非常事態宣言

非常事態宣言!?と思って目にとめた日経の記事は下記の通り。なるほど、オピオイド系鎮痛薬のことだったんですね。以前は(最近も?)日本での積極的な利用がされていないという非難があった麻薬です。鎮痛剤としての最終手段なのですが、アメリカでは「蔓延」が問題になっていたとは。。。依存症にもそ~んなにならないから気軽に利用してっ!というキャンペーンに乗らなかったのは、ドラッグラグなどを批判される厚労省が正しかったということになるでしょうか。TPPなら抗えなかった??

それにしても、トランプ大統領の公約になるほど、そして非常事態宣言が出るほど問題だったんですね。

鎮痛剤乱用に非常事態宣言 米大統領、中毒死増で 2017/10/27 5:32
  【ワシントン=鳳山太成】トランプ米大統領は26日、国内で鎮痛剤「オピオイド」の依存症患者や過剰摂取による死亡者が増えていることを受け「公衆衛生の非常事態」を宣言した。中毒死する人が年3万人を超えており、医療費が膨らむなど大きな社会問題になっている。連邦政府は患者の遠隔治療など規制を緩めて機動的な対策を打てるようになる。

 トランプ氏はホワイトハウスで演説し「我々の世代でオピオイドのまん延は止められる」と述べた。具体的には、オピオイドを扱う製薬会社に製造や宣伝で違法行為がないか取り締まるほか、中毒性が比較的低い医療用鎮痛剤の普及も急ぐ。

 トランプ氏はオピオイド対策の強化を公約に掲げており、8月には「国家非常事態」の宣言も検討すると表明した。ただ、資金拠出を追加するなど効力の大きい国家非常事態の宣言は、長期的な問題の対処にはそぐわないとの理由で見送った。

 公衆衛生の非常事態宣言は、2009年に流行した新型インフルエンザで出した例がある。

 オピオイドはがんの痛みなどを抑える鎮痛剤として1990年代に普及した。中毒性が強く、2016年時点で米国人の依存症患者は200万人を超える。依存症患者が違法のヘロインに手を出す例もある。日本では処方が厳しく制限されている。

 

数ヶ月前から、この件問題になっていることを解説した記事がいくつか出ています。その一つ。オピオイドの8割消費とは、アメリカが特異的なんでしょうけれど…。他の記事でプリンスがオピオイド系鎮痛薬過剰投与で亡くなったとなっています。マイケルジャクソンに付いていた医師も怪しいペインクリニック医だったんでしょうか。

米鎮痛剤汚染 「害がない薬」の認識流布が背景

識者に聞く バージニア大学教授のクリストファー・ルーム氏
2017/9/2 5:47 日本経済新聞 電子版


 鎮痛剤「オピオイド」による汚染が米国で深刻な社会問題になっている。依存症や過剰摂取による死亡も急増し、働かない薬物依存患者が労働市場など経済に与える打撃も無視できない規模になってきた。オピオイド汚染と経済の問題を研究するバージニア大学のクリストファー・ルーム教授に現状を聞いた。

■痛み特化の医院も一因に

 ――オピオイドの世界供給のうち80%が米国で服用されているという統計があります。米国でこれほどオピオイドが増えた背景は何ですか。

 「米国では痛みを十分に緩和できる治療への要望が高まっていたが、そこにオピオイドという鎮痛剤が開発された。製薬会社は積極的に販売促進し、医師もこれを好意的に受け止めた。依存症の危険も小さい害の少ない薬とみなされたからだ。諸外国の多くで政府による薬剤の管理統制が導入されているのに対し、米国はそうした規制がないこともオピオイドが簡単に普及した背景だ」

 ――流行が始まったのはいつごろですか。

 「オピオイド製剤の1つ『オキシコンティン』が開発された1990年代終わりから2000年代にかけてだ。オキシコンティンは『オキシコードン』という薬を変形させたもので、薬の効果が時間をかけて現れるようにしたものだ。この薬は害はないまま、痛みの緩和の効果をより強くしたものとみなされ、普及した。しかし害がないというのは正しくなかった」

 ――米疾病予防管理センター(CDC)など政府は依存症の対策を講じなかったのでしょうか。

 「つい4~5年前までオピオイド依存が問題になっていることをCDCオピオイドの製薬会社はあまり認識していなかったのが実情だ。08~10年にやっとオピオイド汚染が深刻な問題だという認識が出てきたが、政府はそうした問題についての情報を一般に広める努力はしなかった」

 「ペインクリニックといって痛みの治療に特化した医院がかつてあったが、実質的にはオピオイドの処方だけをやっていたようなものだ。そうした医院の閉鎖を含め、最近になってやっと対策を講じようとの姿勢が出てきたが、対策は必ずしも成功していない。しかもオピオイドだけでなく、ヘロインや合成薬フェンタニルというさらに危険な薬が普及、問題解決は一段と難しくなった」

■痛みに過剰な治療の傾向も

 ――CDCは医師向けにオピオイドの処方を控えるよう指針を示しました。これが代替物としてのヘロインやフェンタニルなどの使用拡大につながったのでしょうか。

 「それもひとつの要因だ。しかし、ヘロイン使用者の多くがオピオイド使用者よりも若い傾向があり、必ずしもオピオイドの処方が抑制されたことだけがヘロイン使用拡大の理由ではない。ヘロインがかつてインナーシティ(都市部の貧困地域)を中心に流行していたが、現在は郊外や田舎でも使用が目立つようになった。安価なヘロインがメキシコなどから流入したことも背景にある」

 ――最終学歴が高卒以下で働き盛り(プライムエージ=25~54歳)の白人男性の間でオピオイドの過剰摂取が増えているのはなぜですか。

 「正確な理由はまだ不明だ。エコノミストのアンガス・ディートン氏らの研究で白人男性の『絶望死』が論じられたが、私はこの議論にはやや懐疑的だ。理由はもっと別のところにあるように思う。ヒスパニックや黒人など非白人は痛みに対する治療の傾向が弱く、白人は痛みの治療をやり過ぎという傾向がある。非白人は医師からオピオイドを処方してもらうための医療保険の加入率が低いといった要因もあるかもしれない」

■経済状況との関連は調査なお必要 -省略-

 

■公費でまず患者の治療を

 ――オピオイド汚染を防ぐための対策は。

 「需要側の対策の方が供給側の対策よりも比較的容易なので、まずはオピオイド依存の治療だ。多くの薬物依存患者が治療を受けたくても費用が高くて受けられないという現状を打開する必要がある。治療が受けられるとしても、最も効果的な治療かどうか分析する必要もある。そのためには政府が費用の大部分を負担することが強いられるだろう。これは政府の政策決定に委ねられる。毎年5万人がオピオイドの過剰摂取で死亡していることを踏まえれば、公的な対策は急務だ」

 「供給側としては、安価な薬物が海外から流入するのを阻止することが重要だ。医師がオピオイドを処方する際には患者への情報提供を徹底し、ヘロインやその他の薬物についても話す必要がある」

(聞き手はニューヨーク=伴百江)

 

クリストファー・ルーム氏(Christopher Ruhm) バージニア大学公共政策・経済学教授。カリフォルニア大学バークレー校で学士、修士、博士号を取得。96~97年にクリントン大統領の経済諮問委員会のシニアエコノミストとして厚生政策、高齢化と労働市場の政策担当を経て現職。62歳

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